今の日本で見る意味「ディン・Q・レ展:明日への記憶」@森美術館

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六本木の森美術館で10/12まで開催の「ディン・Q・レ展:明日への記憶」に行ってきました。

ディン・Q・レはベトナム人アーティスト。森美術館のサイトによると、1968年、カンボジアとの国境付近のハーティエンに誕生。10歳の時、ポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族とともに渡米。写真とメディアアートを学び、現在はホーチミン在住です。

私はこどもの頃から海外によく行っていて、アジア・中東・西ヨーロッパはかなりの国を巡りました。その中で一番肌が合った国はベトナムでした。食べ物、風景、人々のしぐさ。すべてが魅力的で、いつか住みたいとも思っていましたし、仕事でもベトナムの方とご一緒したことがありますが、気が合う印象でした。安らぐ国でした。でも、街中で自分より年上の人を見かけると、「この人はベトナム戦争やポル・ポト派の国境侵攻、中越戦争を生き延びたのだな」と、ふと思うことがありました。この美しい街、キッチュな雑貨、アオザイの似合う女性たちが戦火に巻き込まれたことがあったのだな、と。

「明日への記憶」展のテーマは、名もなき市井の人々の戦争の物語です。8月に見た横浜美術館の蔡國強展「帰去来」と同様に、感動がずっと続くすばらしい個展でした。

※展示物はすべて撮影可です。以下iphoneにて撮影。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

森美術館といえば、この大きなポスターですね。黒と緑、そしてこのフォントが戦争を象徴しています。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

とても美しい巻物のように見えるこれは、ベトナム人僧侶が戦争に反対して焼身自殺を遂げた際の報道写真を引き伸ばしたものです。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

この展示の目玉! 手作りヘリコプター。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

独学の技術者トラン・クォック・ハイは、農作業や人命救助を目的としたヘリコプターの開発に着手。その手作りのヘリコプターが、実際に展覧会場に展示されています。

そう、この向かって右側の男性が一から手作りしたヘリコプターなのです。先日の北関東・東北水害の際には、取り残された人々を救って、とても頼もしく見えたヘリコプターですが、ベトナムの人々にとっては、恐ろしい攻撃を仕掛けてきた米軍のヘリの記憶も生々しく残っているのです。そんな中で救助ヘリを自作したハイさん、複雑な思いを語る老婦人などが登場する映像インスタレーション。自分の持つイメージは非常に限定されたものなのだ、とつきつけられる作品です。

他にも映画『地獄の黙示録』『プラトーン』を並べて見せたり、アメリカのポスターのスタイルでベトナムの犠牲の多さを語るものもありました。どこか、映画の中の出来事のように感じ、アメリカの視点で語られることに慣れてしまっていたのではないでしょうか。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

「傷ついた遺伝子」という、枯れ葉剤の深刻な被害に焦点をあてた作品群。つながったおしゃぶり。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

ベトちゃん・ドクちゃんという結合双生児のことをご記憶の方も多いでしょう。でも、ベトナム国内ではどういうふうに受け止められているのか、結合双生児用の服(ディン・Q・レが作成したもの)を実際に市中で販売した様子の映像もありましたが、理解を示す人もいれば、不快感を表す人もいました。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

今回私が一番衝撃を受けて、しばらく動けなかったのがこちらの「抹消」という作品。床に敷き詰められているのは、ホーチミンのマーケットで買い集められた、無名の人々のポートレイト。来場者は床の写真を1枚選び、中央の箱に入れると、係の人がそれをスキャンするというインスタレーションになっています。奥に座礁した船、スクリーンには燃え上がる帆船の映像。私が拾い上げた写真には、数人の人達がアコーディオンのようなものを楽しみながら何か話している様子が写っていました。拾い上げる手が震えて、しばらくその場で涙を堪えなければなりませんでした。難民となり海を漂い、国境を越え、命を落とす人々にも、ひとりひとりの人生があり、暮らしがあったことを、胸に叩きつけてきます。今、報道されているシリア難民の人たちにも、大切にしたい日常があったのだ、と、現在と地続きの問題だと改めて感じさせます。

ディン・Q・レ展:明日への記憶

こちらはベトナムらしいキッチュさがあふれる、楽しくて皮肉のきいた作品。サッカーの試合で売る国旗を載せた自転車。愛国心ってそんなに簡単なもの? という問いが含まれています。愛国心は別としても、ベトナムの国旗は可愛いですよね。この柄の真っ赤なTシャツ、持ってますもん。

「農民とヘリコプター」の映像で、空から狙い撃たれかけた経験を語る老婦人の言葉が、とても印象的でした。

”戦争を知らない世代は、それをおとぎ話のようなものだと思ってしまう”

今の日本の私たちは、彼女にどんな返事をするのでしょう。

10/12(祝)までの展示です。お見逃しなく!